ジョン・ケージという作曲家をご存知でしょうか。ケージは20世期のアメリカの作曲家で現代音楽の巨匠として知られています。ケージで最も知られているのは「4分33秒」という楽曲でしょう。それはオーケストラや演奏者が、4分33秒の間一切演奏しない状態を楽曲としたもの。このような無音を音楽として発表したことは、音楽のあり方を変えた作曲家としてケージの名前を音学史に刻むことなります。ここドイツには、そんなケージの特別な楽曲を体験できる場所があります。それはハルバーシュタットで演奏されている「オルガン2/ASLSP」です。今回はハルバーシュタットでのケージの楽曲の演奏について紹介したいと思います。
ハルバーシュタットはドイツ中部に位置しており、近くには大都市であるハノーファーや、ブロッケン山で知られる観光都市ヴェルニゲローデがあります。ハルバーシュタットで「オルガン2/ASLSP」の楽曲が体験できるのは、旧市街にあるブキャルディ教会。木組みの家など古い街並みが残る旧市街を歩いていくと、多くの道標を見ることになるでしょう。そこにもブキャルディ教会の案内があります。ただし明らかに特別なものとなっています。書かれているのは、「世界で最も長い楽曲、639年!ジョン・ケージ、パイプオルガン・プロジェクト、ブキャルディ教会」。道標で書かれている通り、こちらで体験できるのはケージ作曲の世界で最も長く演奏される楽曲なのです。
ハルバーシュタットの「オルガン2/ASLSP」ですが、2001年に演奏が始まり、2640年まで639年間演奏することが予定されています。この楽曲の演奏時間は奏者に委ねられており、そのため無限に演奏することも可能です。ですが、こちらでは639年という期間が考えられました。その理由はハルバーシュタットの大聖堂に記録に残る最古の12音のパイプオルガンが1361年に設置された歴史によるもの。2001年に始まる演奏は2040年まで演奏される予定ですが、1361年は演奏が始まる前年の2000年まで639年のパイプオルガンの歴史があったことになります。そのため、1361年から2000年と2001年から2040年という2つの639年の歴史的な時間が生まれることになるのです。
ブキャルディ教会の建物内には濃密な空間が広がっています。建物自体は本来の役割を終えており、納屋として長く使われていたそうです。そのため床や天井などは無く、広がるのは吹き抜けの空間。照明などは無く、小さな窓から差し込む日光が建物内を僅かに照らしています。このような薄暗い空間の中に鳴り響くパイプオルガンの音。それは変化することなく同じ音を響かせています。建物内にいると、やがて外にいる人の声や、鳥の鳴き声などが、いつも以上に気になってくるでしょう。変化のないパイプオルガンの音だけでなく、周辺の変化のある音も強く感じられるようになるのです。こうした音の体験は「オルガン2/ASLSP」の演奏であるからこそ、感じられるのかもしれません。
このようなハルバーシュタットの「オルガン2/ASLSP」ですが、演奏のために特別なパイプオルガンが設置され、常に演奏が続けられています。音の変更は少なく長い間にわたって同じ音が鳴り響くことになります。私が訪れたのは2019年の4月でしたが、その音は2013年から演奏され続けてきたもの。そして次の音に変わるのが2020年9月5日となっています。今までは音の変更の際にイベントが開催されてきており、今回はコロナウイルス の影響により、ウイルス対策の制限の下にイベントが開催されるようです。おそらく多くの人にとって「オルガン2/ASLSP」を訪れることは簡単ではありませんが、ウイルスの問題が収まった際に、多くの人がこの素晴らしい場所に訪れられることを願っています。
ジョン・ケージ、パイプオルガン・プロジェクト、ハルバーシュタット / John-Cage-Orgel-Kunst-Projekt Halberstadt
アドレス:Burchardikirche, Am Kloster 1, 38820, Halberstadt
開館時間:12:00 - 16:00 / 11月から3月の火曜から日曜日
11.00 - 17.00 / 4月から10月の火曜から日曜日
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